大学まではバスで一本だ。

 15分程度で着くので歩こうと思えば歩けるが、しかし、昨日のこともあり、また同じように跳ねられては困ると、今日はバスで行くことにした。

 バス停で『バス』を待っていると、どこかで見たようなダックスフントのように長い黒塗りのリムジンが音もなく滑らかに目の前を通過して行った。

 どこかで見た気がする。と思うも、今のところそんな車に縁は無い。

 しれっと去り行く珍しいリムジンのそのすぐ後に普通のバスが来て、葵はいつも通り一番後ろのシートに座る。この時間のこのバスはあんがい空いているので最後部の席を独り占めできたりもしてゆったりと座れるので気に入っている。

 バッグの中から『代謝生理化学1』という見た瞬間に投げ捨てたくなるような教科書を引っ張り出し、ぱらぱらとめくってはみたが、一気に睡魔が襲いにかかってきたので、仕方なしに教科書を閉じることにした。