セピア色の日記を開けばひと夏の思い出がふわり。
りんごあめをかじった時のあの甘酸っぱさとともに思い出す。
緑の葉が初夏の風に吹かれる頃に出会った貴方を。
自転車を漕ぎながら駄弁ったあの日を。
はらりと一枚、日記に挟まれていたらしい写真が風に乗って。
書かれていた日付は紛れもなくあの夏の日。
それを見てまた弾けた思い出。
一枚きりの写真と 「さよなら」の言葉だけ残していった寂しげな笑み。
レンズに写る、ラムネのように儚いせかい。
澄み渡った空のいろ。
少女は愛しそうに優しく、日記をめくってゆく。
からんと氷の溶ける音。
涼やかなミントティーをひとくち。
小さなスノードームがふるふるとふるえて。
目次のページで止まった少女の手。
文字の羅列をその指でなぞって見れば、瑠璃いろの瞳から雨が零れた。
ああ。貴方は。
走り書きのような字で書かれていたタイトルは「Sky Diary」
少女は零れたおもいをそっと抱いて、小さく呟く。
「ハロー、貴方の愛したせかい」
紫の押し花の栞をペン立てに入れて。
さあ、貴方に会いにゆこう。
私と貴方とのひと夏の扉をめくって。
微笑みながら、しかし泣きそうにも見える少女はそう口にして。
黄ばんだページを一枚めくった。