賊は海に出たというが油断は出来ない。短剣をしのばせて様子を伺いながら村へ入る。
賊は全て船に乗ったのか?と思ってすぐだ。
「お、お兄ちゃん!」
村の中央、村人がいた。その中には子供たちもまざり、負傷している者もいる。
「エノヒ様は?」
「浜辺に。ウルドさんたちが助けに行くとか……」
まだ何か言おうとしていたが、それどころではない。
村は荒らされていた。死者は出たのか―――。待って、という子供の声を背で聞きながら、私は走った。
そういえば履物を忘れた。どうりて足が痛いわけだ。少し走ると浜に出る。そこには漁のための舟がある。
「エノヒ様」
張り上げた声に反応し、そこにいた者たちがこちらを見遣り、酷く驚いた表情を浮かべた。それもそうだ。一度町に行くと言っていたのだから。