一体何だったのか。

 大波が押し寄せる前にも"声"が聞こえた。女性の声だ。柔らかく、慈しむような感じを伴ったそれは、恐ろしいとは思わなかった。
 あれはもしかして――――。



「……レト?」




 真下でわずかに感じた。
 海からレトへ。レト。名前を呼んでみる。どうしたらいい。彼女の唇が僅かに開く。
 異変に気づいたリンやセインたちが近くまできて、名を呼ぶ。

 目を覚まして。
 指先を頬に滑らせる。

 さあ、目をあけてくれ。


 睫が、ふるえた。




「ヨウ……?」



 瞳に己がうつっていた。黒曜石のような色。