「お前……」
「話をつけてきました―――レトは、船に?」
何故、というエノヒに重なり「リンも一緒に」と、顔を殴られた跡を残したセインがふるえる声でいう。
舟は破壊されているようだった。今にでも海へ向かおうとするセインの腕を、父であるウルドが掴み止めていた。他の男たちもだ。
荒れてうねる波、破壊された舟。これでは助けに行くことも難しい。予備の舟も小型すぎて、この波では厳しいだろう。
「宝玉も?」
「ああ……ヨウ?」
"守る力"が急に弱くなったのは、持ち出したからか。
海へと進む。奥に船が見えた。あれだろう。先祖が残した珠玉は、力を弱めていてもなお、守ろうとしている。
「ヨウ殿!」
「―――私は、行かなくては」
それは、そこにいた村の者たちは息をするのも忘れた――――。
荒れる海から、影。美しい曲線。
人魚だ―――。そう発したのは、腕を負傷していたオルハだった。