「嘘でしょ……」

「いや、ほんと」


敬語も忘れて、そう呟く。

2人して信じられないと言わんばかりに、口をポカンと開けて目を合わせた。


私は入社してからずっとこのマンションだ。

櫻井さんはこっちに転勤になってからだから、せいぜい引っ越してきて1ヶ月ってところだろう。


それでも、実際マンションに誰が住んでいるかなんて知らないし。

住民とバッタリ会う事もほぼない。

というか興味もない。

でもまさか上司が住んでいるなんて思いもしなかった。


唖然としながら言葉を無くした私を横目に、慣れた様子で地下の駐車場に車を停めた櫻井さん。

その様子を見て、冗談なんかじゃないと確信する。


気まずさなのか、驚きなのか、何を話していいか分からなくなって、促されるまま車を降りてエレベーターに乗り込む。

櫻井さんも同じ事を思っているのか、何も話さない。