黒い車を前にして、大きく溜息を吐く。

ここまで来たら乗らなければ、逆に迷惑だ。

まんまと彼のペースに乗せられてしまった。

内心悔しく思いながらも、渋々助手席に乗り込んだ。


カチッとシートベルトを締める私を見て、不敵な笑みを見せてからエンジンをかけた櫻井さん。

勝ち誇ったその顔に、風邪さえ引いていなかったらパンチを繰り出したい。


どうして、こんな事になるんだろう……。

小さく溜息をついて、瞳を閉じる。

座った途端に、どっと疲れが押し寄せてきた。

どんどん体が重くなるのが分かる。

さっきの言い争いが原因だと思ったら、恨めしくなった。


目を閉じて、大きく息を吐く。

寝たいけど、道案内をしなきゃいけないから、寝るわけにはいかない。

とりあえず、家の最寄駅を言ってそこまで向かってもらおう。


家は駅の近くにある。

駅で降ろしてもらって、あとは歩いていこう。

もうこれ以上、迷惑はかけられない。