「あのっ! 本当に大丈夫なんでっ。タクシーで帰りますから!」
スタスタと前を歩く櫻井さんの背中に向かって、慌てて何度もそう言うが聞いちゃくれない。
人の事言えないけど、なんて頑固なんだ。
「申し訳ないですっ」
「今更だろ」
「あのっ! 本当にタクシーで大丈夫なんでっ」
声を出す度に、眩暈がする。
今にも倒れてしまいそうになりながら、目の前を颯爽と歩いていく櫻井さんの背中を追う。
それでも諦めずに、フラフラの体に鞭打って声を上げようとした、その時――。
「もう遅い」
そう言って、ポケットから取り出した鍵を目の前の黒のスポーツタイプのスタイリッシュな車に向ける櫻井さん。
すると、ピカっと合図するように、その車のライトの部分が光った。
言い合っているうちに、車のある駐車場に着いてしまったんだ。
茫然とする私を横目に、櫻井さんは後部座席に私のバックを置いた。
そして、乗れ。と言わんばかりに顎で助手席を指された。
なんて、強引なんだ。