「松本の荷物持ってくる。部屋を交換しよう。お前はそのままこの部屋を使え」
そう言って立ち上がった彼から、ふんわりと香る煙草の匂い。
その匂いに体が無意識に反応して、思わず彼のワイシャツの裾を掴んだ。
一瞬止まる空気。
櫻井さんも驚いているが、一番驚いたのは。
私。
だけど直ぐに我に返って、慌てて掴んでいたシャツを放した。
それと同時に、なんとも気まずい空気に包まれる。
じっと私を見下ろす櫻井さんの視線を感じる。
何も言えない私は、ただただ俯いていた。
長い沈黙――…。
しかし突然、窓際に置いてあった1人掛け用の椅子を持ち上げてベットの横に置いた櫻井さん。
そして。
「寝るまでいる」
そう言って鞄の中から、いつものノートPCを取り出して椅子に腰かけた。