それから、直ぐに高速に乗った私達。
土曜日とあってか、車の数は多い。
「櫻井さんって兄弟いるんですか?」
変わらない景色にも飽きてきて、徐にそう話しかける。
すると、片方の手でハンドルを握っていた櫻井さんが口を開いた。
「兄貴が1人、6つ上の。子供の時はいつも勉強教えてもらってたな。松本は?」
「私もお兄ちゃんが1人」
「あ~なんとなく分かる」
「それ、どういう事ですか?」
「なんか、さっぱりしてる所とか」
「――これでもたまに女性らしい所あるんですよ」
「これから楽しみにしてる」
煙草を吸いながら、そう言って微笑む櫻井さんを見て私も笑う。
そういえば、私って櫻井さんのプライベートの事何も知らないんだな。
以前までは、知ろうとも思わなかったし、それにきっと教えてくれなかった。
だから、今こうやって普通に返ってくる返事に嬉しくなる。
とても小さな事だけど、胸が温かくなる。
こういう些細な所で、彼のあの境界線の中に入れたんだなって実感する。