◇
そして、迎えた休日――。
「おし。終わり」
前髪を留めていたピンを外して、手で軽く直す。
ふぅっと息を吐いて、念入りに化粧を施した自分の顔を鏡越しに見つめる。
今日は櫻井さんとの約束の日。
食事などは付き合う前から何度もしていたけど、こうやって一緒に出掛けるのは初めてだ。
ガラにも無く、昨日は眠れなかった。
いい歳して緊張している自分に少し笑えてくる。
今まで感じた事がないくらい胸がドキドキしている。
まだ自分にも、こういう可愛い部分ってあったんだな。
そう思って、少し笑った。
「準備できました!」
バタバタとベランダに出て、煙草をふかしている櫻井さんに声をかける。
すると、携帯灰皿に煙草を押し付けた彼は大きく空に向かって背伸びをした。
「おし。行くか」
スーツ姿でない彼は、どことなく若く見えるから笑っちゃう。
こうして見ると、上司だって事忘れてしまう。
そこがまたギャップで萌えるんだけれど。
「今日は、どこ行くんですか?」
助手席に乗り込んで、隣でエンジンをかけだした櫻井さんに話しかける。
すると、どこか悪戯っ子のように笑った彼はサングラスをかけて片方の唇を上げた。
「着いてからのお楽しみ」
そして、静かに車を走らせた。