縋りつくように、櫻井さんのコートを握りしめる。

そんな私に、視線だけ向けた櫻井さん。

そして、真っ直ぐに私を見て口を開いた。


「警察を」

「――っ」

「警察を呼んで来い。――早くっ!!」


最後に大声でそう言われた瞬間、弾かれた様に走り出した。

後ろでは、男の狂ったような声が聞こえる。

櫻井さんの怒号が聞こえる。

それらを世界の端で聞きながら、一心不乱に走った。


警察を。

早く。

櫻井さんが。

早く――っ。