「リラックス中?」

「そのようなものです」


私の側まできた櫻井さんが、桜からゆっくりと視線を下ろして私を見つめた。

その眼差しから、思わず目を背けてしまう。

そんな私を気にもせず、櫻井さんは私の座る隣のベンチに腰かけて再び桜を見上げた。


「早咲きの桜だな。まさか、この時期に見れるとはな」

「……ここ最近、温かかったですもんね」


以前と変わらず話す櫻井さんに、私も平静を装って言葉を選ぶ。

こうやって話していると、あのキス事件なんて無かったように思える。

いや、彼の中では『無かった事』なのだ。


だけど、こうやって変わらず話せる事が嬉しくも思う。

例え、その心の奥に入れなくても。


「やっぱ桜って散ってる時が一番綺麗だよな」

「花、好きなんですか?」

「詳しくはないけど、見てるぶんには好きかな」


そう言って、散っていく桜を少し目を細めて見ている櫻井さん。

その横顔が、どこか寂しそうに見える。


なんでだろう。

純さんの話を聞いたからかな。


いつもと変わらないはずの姿なのに。

その表情1つが全て悲しそうに見えてしまう。


笑顔が強がりに見える。

優しさが嘘に聞こえる。

心に開いた、穴が見える。