「綺麗だな」


静寂の中に突然落ちた声。

あまりにも驚いて、ビクッと体が飛び上がる。

そして、勢いのまま声のした方に振り返った。

だけど、その先に見えた姿に目を見開く。


「櫻井さん――?」


勢いよく振り返った先には、片方の手をポケットに入れた櫻井さんが、桜を見上げながらこちらに歩いてくる姿だった。

一瞬幻かと思って目を瞬くが、やっぱり櫻井さんだと分かって心臓が早鐘を打つ。

それと同時に、どうしてここに? という疑問が湧く。


「会議、は……」


動揺からか、言葉が端的で僅かに揺れている。

そんな私に、ようやく視線を向けた櫻井さんが僅かに口角を上げて微笑んだ。


「終わった」

「どうして、ここに」

「帰る途中に桜が見えたから、ちょっと寄っただけ」

「――」

「そしたら、松本がいて驚いた」


その言葉に、とりあえずコクンと頷く。

心を落ち着かせて櫻井さんを見れば、確かにいつものコートを羽織って鞄も持っている。

そういえば、駐車場に行く途中、たまにここを通るって言っていた。

ここで会ったのは、本当に偶然だろう。