◇
「はぁ……」
深い溜息が事務所の中に落ちる。
デスクの上には、資料がゴチャゴチャと散らかっていた。
純さんと会ってから数日経った。
決意はもちろんできていたけど、実行できない日々が続いている。
そんな悩み事が多い時は、仕事でも紛らわす事は難しい。
いつもの、時間を忘れてのめり込んだ残業ではなく、ズルズルと仕事を引きずった残業になってしまった。
もちろん、やるべき仕事は一つも片付いていない。
「ダメだ。帰ろう」
一向に頭の回転に勢いがつかず、結局諦める事にした。
事務所の中は、もう私だけ。
チラリと奥の会議室を見ると、まだ明かりがついている。
主任、課長クラスの人達が連日会議をしている部屋だ。
櫻井さんも、今は新年度の準備で忙しいみたい。
以前のように一緒に帰る事もないし、マンションでバッタリ会う事もない。
別に避けられているわけではないのだろうけど、2人きりになる事はあのキス事件以来一度もない。
気持ちを伝えようにも、タイミングがないのだ。