「はぁ……」


深い溜息が事務所の中に落ちる。

デスクの上には、資料がゴチャゴチャと散らかっていた。


純さんと会ってから数日経った。

決意はもちろんできていたけど、実行できない日々が続いている。


そんな悩み事が多い時は、仕事でも紛らわす事は難しい。

いつもの、時間を忘れてのめり込んだ残業ではなく、ズルズルと仕事を引きずった残業になってしまった。

もちろん、やるべき仕事は一つも片付いていない。


「ダメだ。帰ろう」


一向に頭の回転に勢いがつかず、結局諦める事にした。

事務所の中は、もう私だけ。


チラリと奥の会議室を見ると、まだ明かりがついている。

主任、課長クラスの人達が連日会議をしている部屋だ。

櫻井さんも、今は新年度の準備で忙しいみたい。


以前のように一緒に帰る事もないし、マンションでバッタリ会う事もない。

別に避けられているわけではないのだろうけど、2人きりになる事はあのキス事件以来一度もない。

気持ちを伝えようにも、タイミングがないのだ。