自分の気持ちを知ってほしいと思うと同時に、怖くなる。
この関係が壊れるのが怖くなる。
きっと、この気持ちを伝えても、櫻井さんは私の欲しい言葉をくれはしない。
そして、間違いなく彼は私から距離を取る。
こんな風に一緒に帰ったり、お酒を飲んだりする事は無くなる。
だけど、気持ちを伝えなければ何も変わらない。
そんな事分かっているけど、足踏みしてしまう。
臆病になって、何も言えなくなる。
そんな事を考えていると、いつの間にかマンションに着いていた。
無言のまま2人エレベーターに乗り込んで、目的の階を押そうとした、その時。
「あ~、すいません、乗ります乗ります!」
エントランスに響く、騒がしい声。
そして、その声が聞こえた瞬間、ワラワラと沢山の人がエレベーターに乗り込んできた。
きっとこれから、ここの住人の家で二次会なんだろう。
頬を赤く染めた若者達が、手に酒やらつまみの入った袋を持って騒いでいる。
一気に満員になったエレベーター。
最初に入った私達は壁側に追いやられてしまっていた。
酒の臭さと、熱気に押されて思わず眉間に皺が寄る。
すると。
「大丈夫か」
頭上から囁き声がした。