もっと気の利いた言葉はないのか。
そう自分でも思ったけど、そんな言葉見当たらなかった。
「さんきゅ」
少しだけ口角を上げてそう言った櫻井さんだけど、相変わらず他人事の様子。
まぁ、私もこの年になって自分の誕生日を盛大に祝おうなんて思わなくなったし、カレンダーを見て心待ちにする事もない。
それでも、こんな特別な日に一緒にいたのに、お祝いの言葉1つで終わらせていいのだろうか。
一年に一度の特別な誕生日と、クリスマス。
この店に来るまでは特別意識していなかったのに、そう思ってしまった事を深く後悔する。
せっかくなら、小さなプレゼントの1つでも用意すれば良かった……。
そう思ってはいても、今更どうする事もできずに呆気なくお会計も終わってしまった。
行動力も、気の利いた言葉も言えない自分に嫌気がさす。
「寒っ」
自己嫌悪を抱えながら外に出ると、一気に体の体温を持っていかれてそんな言葉が落ちる。
凍てつくような寒さに、体が縮こまる。
そんな私と同じように、身を縮ませて櫻井さんは白い息を吐いた。
「もう年末か。あっという間だったな」
そう言って、コートのポケットに手を入れて歩き始めた櫻井さん。
その後ろを、ゆっくりと追う。