結局、いろんな店を転々としてから、少し離れた所にあるビストロに入る事にした。
クリスマスというだけで、いつもはガラガラの店も満員御礼だ。
すっかり冷えた体を震わせながら、椅子に座る。
落ち着いた雰囲気の店は、もちろんカップルだらけ。
ほどよく落とされた照明に、優雅に流れる音楽。
特別感溢れる雰囲気に、場違いかなと思ってしまう。
本当は、適当な居酒屋で良かったのに結局どこも空いてなかったから、無駄に雰囲気のある店になってしまった。
だけど、これ以上ウロウロ店を探すのも疲れたし諦めよう。
というか、クリスマスにこんな雰囲気のある店に櫻井さんと一緒にいるのは、なんだか不思議な感じだ。
でも、いつもと変わらない様子でメニューに目を落とす彼は何とも思っていなさそう。
きっと、気にしているのは私だけ。
そう思うと、少し寂しく思えた。
だから、私もいつもと変わらないように接する。
仕事の話を中心に、他愛もない話をする。
自分は特別じゃない、と言い聞かせながら――。
「宜しかったら、アンケートにご協力ください」
食後のコーヒーを飲んでいると、感じのいい店員がアンケートを持ってきた。
ニッコリとと笑って、ペンと紙をテーブルに置いていった。
結局、あの後、いつもと変わらない会話を繰り広げた私達。
周りはラブラブな雰囲気なのに、仕事の話オンリーで雰囲気の欠片も無かった。
まぁ、別にいいんだけどね。