「まだ残ってたのか」
薄暗いフロアに響く声に顔を上げた。
すると、事務所の入口に立つ櫻井さんと目が合った。
いつもなら何も思わないのに、逃げるように視線を外した。
「櫻井さんこそ」
「俺は外回り」
「そうですか。……日向は?」
パソコンを打ちながら、それとなく聞いてみる。
ここ最近、日向のサポートで夕方から外に出ている事が多かった櫻井さん。
この時間は、いつもなら2人は一緒にいるはずだった。
それなのに、今日はいつも隣にいた日向の姿はない。
私の言葉を聞いて、デスクに腰かけた櫻井さんは資料をテーブルに出しながら口を開いた。
「あぁ。サポートしてた仕事が一段落したんだ」
「そうですか」
「もう遅い時間だから、直帰させた」
「お疲れ様です」
隠れて息を吐きながら、再びパソコンにかじりつく。
静かな事務所には、キーを叩く音だけが響く。
すると。
「みんな帰ったのか?」
同じように資料を整理しながら、櫻井さんが声を上げる。
その言葉に、パソコンを打つ手を止めて窓の外に目を向けた。
外の世界は、きっと賑わっているんだろうな。
一年で一番、ロマンチックな夜だもんな。
「はい。今日はクリスマスですからね」
――そう。
今日はクリスマスだ。