ドクドクと心臓が主張を始める。

言葉の意味を必死に理解しようとするのに、頭が反応しない。

嫌な予感が胸を覆って、時間を止める。


石のように固まった私を一瞥して、そのまま視線を海に向けた櫻井さん。

慣れた手つきで煙草を吸って、どこか冷めたような表情で口を開いた。


「お前と同じ。やめたんだ」

「――」

「やめたんだ」


遠くを見つめたまま、まるで独り言のようにそう言って、ふーっと白い煙を吐き出した櫻井さん。

その姿が何故か私をも拒絶しているようで心が締め付けられる。


やめた。

私と同じ。


それは、そういう事?

私と同じというのは、そういう事?

『恋』をやめたという事?

誰も好きにならないという事?


ドクドクと心臓が嫌な動きをする。

その言葉を理解したくなくて、唇を噛み締める。

それでも、意気地なしで可愛くない私は、聞きたい事の半分も聞けない。

だから。


「そうなんですか」


そう言うのが、やっとだった――。