「あ、そうだ、言い忘れてた」


悶々と空を眺めてそんな事を考えていると、突然櫻井さんが思いついたように声を上げた。

その言葉に導かれるように、視線を隣に向ける。

すると、そこには缶ビールを持ったまま私を見つめる櫻井さんの姿があった。

ドクンと一度跳ねた心臓を隠すように、平静を装って口を開く。



「なんですか?」

「来週から、日向の仕事のサポートに入る事になった」

「日向の、ですか」

「チームは違うけどな。だけど上からの命令だ」

「そう、ですか……」

「だから、しばらく帰りは送っていけない」

「――…分かりました」


恋をすると、感じたくない感情まで感じてしまう。

この胸の苦しみなんて、味わいたくないのに。


だから、この胸の痛みも感じなかった事にする。

何も無かった事にする。

今湧き上がるこの感情を見て見ぬフリをする。

そんな弱い自分を思うと笑えてきて、ふっと息の下で自嘲気に笑った。



――…つくづく、私は恋から見放されているのかもしれない。