あまりの形相に、さっきまで怒っていたはずなのに焦ってしまう。

そりゃ、突然飛び出した私も悪かったけどさ。

八つ当たりのようなもんだけどさ。


別に待っててって頼んだわけでもないじゃん!

勝手に待ってただけなのに、なんでそんな怒られなきゃいけないの!?


口には出せないから、頭の中で盛大に文句を言ってやる。

そんな私を見て、何回目かの深い溜息を吐いた櫻井さん。

そして、重たそうに体を起こして、そのままズカズカと私の元まで歩いてきた。

私より頭一つ高いからか、自然と視線が上を向く。

見上げるような形になった私を見て、呆れたように櫻井さんは口を開いた。


「それに」


そう言葉を切って、私を見つめる。

今度は眉間の皺を取って、どこか呆れたように。

その瞬間、ふわりと風に乗って煙草の匂いと櫻井さんの香水の匂いが鼻を掠める。


その瞬間、息も出来ない程胸が締め付けられた。

どうしてだろう。

この匂いを嗅ぐと、切なくなるのは。

真剣な瞳で真っ直ぐ私を見つめる櫻井さん。

それだけで、胸が一杯になって苦しい。


「また、何かあったらどうすんだよ」


言葉は厳しいけど、優しい声。

そして、石のように固まった私の頭にポンッと手を置いた。

どこか安心した顔で。



その姿を見て、思った。

あぁ。

私はこの人が好きなんだ、と――。