一度も振り返らずに、その場を後にした。

一刻も早く、ここから抜け出したくて。

歯を食いしばって、荒れ狂う心を押さえようとする。

それでも頭に血が上って、目から涙が零れた。


なんなのよ。

なんで私泣いてんの。


っていうか、なんで櫻井さんにそこまでされなきゃいけないの?

こっちに電話してやれ。って、まるで私と純が付き合えばいいみたいな言い方しないでよ。

そんなお節介、いらないわよ。


もう怒りで、何もかもに腹が立った。

だけど、自業自得だとも思う。

あの日、私は確かに紛れもなく純とキスをした。

その光景を、彼は見ている。


あの頃の私は、キスなんて誰とでもできた。

そこに深い意味なんてなかったから。

だけど、普通の人から見ればそこに意味はあって当たり前。

自分でした事なのに、自分が酷く馬鹿に見えた。