◇
「ねぇ聞いた~?」
ガヤガヤと騒がしい居酒屋の中に、間延びした美咲の声が聞こえる。
ボーっと枝豆を口に運んでいた私は、それで意識を思考の中から現実に戻した。
「何が~?」
「明日から出向で、うちの課に新しい人が来るみたい」
「あぁ、そうみたいだね」
モグモグと口を動かしながら、そう言う。
週末の居酒屋で美咲と久しぶりに酒を酌み交わす。
最近バタバタしていたから、こうやってゆっくり飲むのは久しぶりだ。
「それが、噂では超可愛い子なんだって」
「可愛い子ねぇ……」
「あれ? 違う。癒し系? だったかな?」
「どっちでもいいよ。仕事さえできれば」
偏見かもしれないけど、可愛い子って仕事がトロイっていうイメージが私にはある。
暇さえあれば、鏡覗いている……みたいな。
もう辞めてしまった子だけど、以前、猛烈に見た目に拘っている子がいた。
今みたいに、入社前から可愛い子が来ると騒がれていた。
実際可愛い子だったから、周りのアホな男社員も、可愛い可愛いと煽てた。
調子に乗ったその子は、毎日仕事場とは思えない服装で出勤してきて、香水バンバンつけて、大きな化粧ポーチをぶら下げて、暇さえあればトイレで化粧直し。
話す話題と言えば、お洒落と男の事ばかり。
そのクセ、仕事は全く出来なくて、ミスばかり。
結局半年もしないうちに辞めてしまった。
正直言って、私はその子が大嫌いだった。
だから、『可愛い子』と聞くと無条件でその子の事を思い出してしまう。
拒否反応が出てしまう。