「結婚願望とかないんですか」
「結婚ね~。まぁ、できればいいかな、くらい」
「そんな事言ってたら、気が付いたら誰もいませんよ」
「そん時はそん時だろ」
「櫻井さん、絶対恋愛に興味ないでしょ」
「今は仕事の事で頭いっぱいってとこ」
「私以上に仕事中毒ですよ」
「そうかもな」
そう言って、吸っていた煙草を灰皿に押し付けた。
そして、もうこの話は終わりだと言わんばかりに音楽の音を大きくした。
櫻井さんは、あまり自分の事は話さない。
壁ってわけじゃないけど、何か彼のテリトリーみたいなのがあって。
決して、その中に人は入れない。
もし、入ろうとすれば突き返されてしまう。
人を信じてないとか、そういうのではないけど。
自分の領域を、しっかり守っている。
決して中に誰も入れてくれない。
そんな感じ。
――それを少し寂しいと思うのは、自分でもよく分からない感情。