ようやく視線を伏せる事ができた私に、目の前の女性――…私の親友だった彼女は相変わらず遠慮がちに微笑んだ。

その姿を目に写した途端、心が黒いもので埋め尽くされる。

あの日見た、彼とキスしている光景が蘇る。


「すごい偶然だね。えっと、仕事?」


私のスーツ姿を見て、そう聞く彼女に、うん。と頷く。

私の、か細い声は風に乗って消える。


2人の顔が見れない。

彼に抱かれて眠る、子供の顔が見れない。

だって、その子は。

その腕に抱かれている子は。

きっとあの時彼女のお腹の中にいた子。

私と彼が、まだ付き合っていた時に、できた子。


彼女は何がしたいんだろう。

私に声を掛けて、幸せな生活を見せびらかしたいのだろうか。

それとも、ただ単純に友人として話しかけたのだろうか。


――友人?

そんなもの、私と彼女の間には存在しないのに。


きまづい空気が流れて、誰一人として口を開かない。

きっと、声をかけた彼女でさえ、今は後悔しているだろう。

そんな時、思い出したように彼女が声を上げる。


「あ……えっと、もう1歳になるけど、産まれたんだ。瑠香……番号変わったから報告できなかったけど、引っ越しもしたんだ」


気まずそうなその言葉に、ゆっくりと視線を上げる。

見たくないのに、人の心とは分からないものだ。


「頼人っていうの」


そして彼女は、幸せそうにそう笑った。