「瑠香~気をつけて帰るのよ~」
「それは梨恵の方だって」
名残惜しそうに関西支社の人に連れられて行く梨恵を見て、クスクスと笑う。
相変わらず、お酒が入ると面白い子だ。
「櫻井さん! 瑠香の事お願いしますよ! あ! お願いしますっていうのは、ちゃんと送り届けて下さいね、って意味ですからね!」
「分かったから、早く帰れ」
「分かってますよ~っ!」
「手出したらダメですからね!」
「早く帰れ」
「櫻井さん、冷たいです~!」
酔っぱらったオッサンみたいな梨恵を、シッシと犬を追い払うように手をひらめかせた櫻井さん。
お酒の力もあってか、久しぶりに会うメンツに楽しそうだ。
いつも以上に、表情が柔らかだったと思う。
「仲良かったんですね」
「ん?」
「関西支社の人達とです」
「あぁ、いいメンバーだった」
そう言う櫻井さんの顔は、どこか懐かしそうだった。
そのまま踵を返した櫻井さんを追うように、足を進める。
泊まっているホテルまでの道を、櫻井さんと並んで歩いた。
どうやら酒の強い私達は、浴びるほど飲んだにも関わらず足元はしっかりしている。
「やっぱ関西の人って面白いですね」
「なんだろうな。話し方が上手いんだろうな」
「盛に盛って話しますよね」
「相手先にもあのテンションだから、ビビるよな」
「土地柄ですかね」
「そうかもな」
クスクス笑いながら、櫻井さんと並んで夜道を歩く。
火照った体に夜風が気持ちいい。
時計を見れば、まだ夜の10時。
もう一杯飲んでいこうかな。
折角だから櫻井さんも誘って、と思って口を開こうとした、その時――。
「瑠香?」