足を進めて角を曲がった時、目の前に現れた姿に足を止める。

トイレの出口の壁にもたれかかって立っているその人は、ゆっくりと視線を上げて私を見つめた。


「駆――さん」


腕を組んで立っていた彼は名前を呼んだ私をじっと見つめる。

その何か言いたそうな表情を見て、見られていたかな、と思う。


「いつもあんな事してんの?」


あんな事――。

あぁやっぱり見られていたか。


「悪趣味ですよ。覗き見なんて」

「別に好きで覗いたわけじゃない」

「それを言う為に、わざわざ待っていたんですか」


私の言葉を聞いて、小さく溜息を吐いた彼はそっと壁から背中を離した。

そして、そのままスタスタと私の方に歩み寄ってくる。


「もっと自分大切にしろよ」


私の隣で足を止めたと思ったら、小さな声でそう言った彼。

そして、そのまま何も無かったかのように自分の席へと帰っていった。