顔を上げた先にいたのは、優しく微笑む櫻井さんだった。
目を瞬かせた私の頭を、もう一度ポンッと撫でた。
「何かあったら言え」
「――」
「いいな」
「あ、はい……」
「じゃ、おやすみ」
ポロポロと言葉になりきらない声を発した私に、不敵な笑みを浮かべてそう言った櫻井さんは、そのまま静かに部屋へと入っていった。
その姿を、扉が閉まるまでじっと見つめる。
そして、パタンと無機質な音がした瞬間、小さく頭を下げた。
「おやすみな……さい」
小さな声はきっと彼には届いていない。
それでも、心はどこか温かかった――。