「松本は?」

「え?」

「ずっと一人暮らしなわけ?」

「私は大学を期に上京してきたんで、それからずっと一人暮らしです。地元、凄い田舎なんで」


昔は嫌いだった、目の前に広がる田園風景。

閑散とた駅。

虫の鳴き声。

生い茂る木々。

今では懐かしい。



「本当に何もなくて、まぁ長閑な所です」


東京に来て、こんなにも世の中に人がいたって事に驚いた。

空って、こんなに狭かったっけって思った。

初めて来た頃の事を懐かしく思っていると、不意にふっと小さく息の下で笑った声が聞こえた。

導かれるように声のした方に視線を向けると、大きな瞳を細めて私を見つめる櫻井さんがいた。


「なんとなく想像できる。お前見てると」

「え?」

「しっかりしてるようで、のんびりしてるから、お前」


そう言って、再び視線を月に戻した櫻井さん。

そして、満足したのか、ごちそうさまと言って部屋の中に戻っていった。


1人になった世界に、ポツンと残される。

その中でも、胸の奥が不思議と温かくなる。


「のんびり、か」


当たっていると思って、口元を三日月形に緩める。

なんだか無性に、嬉しくて――。