静かな夜の中、2人同じように月を見上げて空を見上げる。

それでも、ふと風に乗って石鹸の香りが鼻を掠めた。


徐に視線を下ろして隣を見ると、少しだけ髪の濡れた櫻井さんが夜風に髪を遊ばせていた。

その横顔は相変わらず爽やかで、どこか若々しく見える。

きっと着ているものがTシャツとスエットだからか、大学生に見えなくもない。


「櫻井さん、ずっと1人暮らしなんですか?」


その姿に、そう問いかける。

今更だけど、私この人の事何も知らないな、と思って。

すると、視線を月から私に移した櫻井さんが缶ビールを口に添えたまま言葉を落とした。


「ん? あぁ。大学の頃からそうかな」

「地元はどちらなんですか?」

「埼玉」


埼玉か。

通おうと思えば通える距離だけど、彼の性格からして1人暮らしが合っているんだろう。


1人がいいって事と。

終電を逃しても、すぐに帰れる距離って事。