辻本君に貰ったコロッケは、

温かくて美味しかった。


私の体力も戻っていく。





「美味しいでしょ、ここのコロッケ」



彼は口から白い息を吐きつつ、

私にそう問いかける。



「うん」



本当にそう思う。


でもね、辻本君。




私はコロッケの味なんて分からなかったの。




おじさんにも辻本君にも悪いけど、

味なんて感じなかった。












だって、ずっとドキドキしていたんだから。






コロッケの味なんか、分からなかったよ。