「あのよ、美晴さん」



俺は彼女の名前を口に出していた。



言うつもりなんて、更々なかった。


でも、何かが我慢できなくて。




「どうしたの、辻本君」




そう言って丁寧に答える彼女。



手に持っていた文庫本を閉じ、

俺のほうをジッと見つめる。




そのあどけない表情。



可愛い。





今すぐに抱きついてしまいたいぐらいに。






俺はもう戻れない。