泣き止むまでに、奏多はそのままの姿勢で時折七菜子の背中を擦った。
ようやく落ち着いた頃に、奏多は七菜子の頭上で弱々しく呟いた。
「ななちゃんに嫌われたと思ってたよ」
見上げて首を振ると、奏多は小さく息を漏らした。
「でも諦められなかった。だから賭けたんだよ、ななちゃんに」
切なげに掠れた声。七菜子の背中に心地良い感覚が走る。
「一目惚れっていつか言ったけど、知れば知るほど好きになって困ったよ」
惜しげもなく嬉しい言葉ばかりを並べながらも、照れたように笑う彼が愛しい。
七菜子は少し高い耳元に口を寄せた。
「もう二度と一目惚れしないでほしいの」
「うん、約束」
そう言ったのも束の間、唇から伝わるのは彼の暖かな感触。
二つの影が重なったその時、優しく照らしていた夕日だけがそれを見守っていた。
『まばたきの恋』end.