階段を駆け上がって辿り着いたのは、図書室。
ここに居るような気がしてならなかった。
逸る呼吸を落ち着けて、恐る恐る引き戸を開けた。
暖かな空気に包まれて冷えた頬が染みていく。
カウンターに居た図書室の先生に挨拶をして、その場所をぐるりと見渡した。
しばらく寄りついていなかった書庫にも入ってみた。
「居ない」
彼の姿は無かった。
肩を落とした七菜子の後ろで、何かを思い出したような、のんびりとした声が響いた。
「ああ、そうそう。桐谷さん。」
それは司書の先生だった。人指し指を頬に当てて、穏やかな微笑みを浮かべていた。
「ここのところ、桐谷さんをずっと探してる男の子がいたのよ。なかなか捕まらないからって、彼から伝言をもらってたの。
『ほんとの”こころ”はいつ受け取ってくれますか。それとも。もう返却した方が良いですか』って。
本の貸し借りは良いけれど、図書室の書籍ならきちんと貸出カードを提出してね」
先生の冗談に七菜子は顔を赤く染めた。
すぐに頭を下げて図書室を出て、七菜子は頭を全起動させた。
(ーーどこにいるのだろう)
打ち鳴らされる鼓動とチャイムがリンクする中、焦る七菜子の目にあるものが留まった。