それからしばらく、図書室へ動く足が鈍くなった。


いつも書庫でさぼっている後輩にカウンター当番を頼んだり、図書室に行くのを極力避けたくなった。



自分が好きでやっていたことなのに、貸出カードも、紙の独特の匂いも、そこで感じた何かの節々にはいつからか一人の面影を浮かべてしまう。



(これ以上はきっと、嫌われてしまう)



書庫での出来事があった翌日、奏多はどこか気まずそうだったが、七菜子を見るといつものごとく近付いてきたのだ。


それでも七菜子は、挨拶を交わすのが精一杯だった。


会っただけで、自分の醜い心の内を見透かされてしまいそうだったのだ。



そうすればきっと奏多に嫌われてしまう。それがたまらなく怖かった。


会いたいと思わなければ案外目にすることは少なくなって、七菜子は、不思議と世界が自分の思うように回っている気がした。



それでも同じ学舎にいて知り合ってしまった以上は、人気の多いところでも互いの姿を見つけてしまう。



いつものように軽く挨拶をした。そこまでは良かったのだ。


何か言いたげな顔は見ない振りをして通り過ぎる。


自らの行動を悔やむのはいつだって時すでに遅し、なのだろう。


少し歩き出した頃に、罪悪感に耐え兼ねた七菜子は振り返ってしまった。