私は髪を掻き上げながら静かにこう言った。


「…言ってなかったけど私、高校生の時に一回殺されかけてるの。その時の記憶がないんだけど、後で話を聞いたら体に傷がいっぱいあったって。まだ体にうっすらと傷は残ってるけど。たまにその傷が疼くのよ。その犯人は男性だった。ま、すぐに逮捕されたけど。それから男性が恐くなって。ごめん。こんな話しちゃって。あの時に目の奥に感じたのは男の人を恐がってるっていう気持ちだった。」





少しの沈黙の後、西村が

「広尾さんはかつて月野さんと同じような経験をしていたってことですか?」



そう聞いてきた。

「分かんないけど。帰りに私にコートを渡した時に左手首にうっすらだけど傷跡があった。刃物で切られたような傷跡が。だからちょっと気になって。」



すっかり暗くなった空気を和ませたのは佐伯の一言だった。

「ビール来たみたいだからとりあえず乾杯しましょ?話はそれからでも大丈夫ですから。」



その言葉とともに自分のグラスを持ち上げて乾杯をした。