いつもより少ないとはいえ、お客がいるにも関わらず悪態をつく暁に苦笑いする。
(‥‥って、馬鹿は、一言余計よ)
いつも通りの対応、いつも通りの会話。そんな偏屈もないやり取りが、今の杏里には心地よかった。
「ねぇ‥何か飲み物、頂戴?‥‥って何その顔‥‥喉、乾いたんだって」
「酒はやらねーぞ。未成年」
眉をひそめながら、明らかに迷惑そうに言うこの店主。そして、その表情さえ無駄にイケメンなこの人。
前言撤回だ。嫌いな相手ならともかくいとこに対してこの対応は、何?
そりゃ、まだ未成年なのは確かだけどさ‥もうちょっと言い方とか‥‥ねぇ?
「‥‥酒じゃなくて、なんかないの?」
「‥‥‥‥水ならある」
「じゃあ、それで」
本当は未成年なんかが立ち寄る場所じゃないけど、暁が経営しているお店にこうして気軽に立ち寄ってる。
(‥‥‥まぁ、要は暇なんだよね、うん。)
グルリと店内を見渡して、少ない客の様子を眺めた。木造で出来た店内には洋風なポスターや壁に文字が書いてあり、店自体が大人な雰囲気に包み込まれていた。
大人でオシャレなお店。
それが暁が経営しているBAR。
制服を着た私が場違いなのは、今に始まったことじゃないから慣れている。ここに通うお客は常連の方が殆どだ。私がこの店主のいとこだと知っているようで、みんな優しくしてくれていた。
口が悪いのに何故か人から好かれる私のいとこは、仕事で疲れたサラリーマンの愚痴やお客の話に耳を傾けていた。
どこかこなれた雰囲気のお店なのに、居心地の良さに感銘を受け、再びお店に通いそのまま常連になるケースも少なくない。
私もそんな常連客の1人だった。
とにかくこのお店の雰囲気が好き。
ここにいるだけで気持ちが落ち着いてくる。
「はいよ、お待ちどーさん」
「ありがと」
水の入ったコップを渡され、マドローで氷を溶かすようにかき混ぜた。カランカランと、耳障りのいい音がする。