空の上でのこと。
偉大な天使が、小さな天使に言った。
『これほど我々が尽くしても、悪魔が人を誘うので世の中が良くならない』
小さな天使は頷いた。
『人を導くよりも悪魔を改心させようと思う』
偉大な天使の言葉に、小さな天使はにこにこ頷いた。
『お前がまず、悪魔を1人改心させるのだ』
小さな天使は、地上に降り立った。

地の底のこと。
邪悪な悪魔が、小さな悪魔に言った。
『これほど人を誘惑しても、天使が改心させるので世の中が悪くならない』
小さな悪魔は頷いた。
『人を誘惑するよりも、天使を堕落させるべきだ』
邪悪な悪魔の言葉に、小さな悪魔にやりと頷いた。
『お前がまず、天使の1人を誘惑するんだ』
小さな悪魔は、地上に這い出た。

小さな天使と、小さな悪魔が地上で出会った。
天使は悪魔に言った。
『他人を思いやろう』
悪魔は天使に言った。
『他人を利用してやろう』
それから何時間もお互い言い合うが、話は平行線。
2人は疲れて空腹になった。

そこに小さな男の子が来た。
男の子は迷っていると言う。
『泣かないで、送ってあげる』
天使が男の子の手を引いた。
悪魔は驚いて引き止めた。
『話をしている途中じゃないか』
天使は答えた。
『送ったら続けるから、少し時間を下さい』
悪魔は仕方なく天使と一緒に男の子を送った。
家で待っていた母親が泣きながら、2人に感謝して食事をくれた。
悪魔が言った。
『悪くないな』
天使がにっこり笑った。

男の子の家を出てから、暫く歩き悪魔が言った。
『お前の仕事を手伝ったのだから、お前も俺の仕事を手伝え』
天使はそれもそうだと思い、頷いた。

2人は風になり、道行く人の帽子をさらって逃げた。
帽子を取られた人は、必死に追いかけて来る。
天使が笑いながら言った。
『おもしろいね』
悪魔はにやりとして頷いた。

それから2人は並んで座って、また延々とお互いの考えを伝えたがどうにもまとまらない。
天使が言った。
『君が改心しないと天国に戻れない』
悪魔も言った。
『お前が堕落しないと地獄に戻れない』
2人は顔を見合わせて、困った顔をした。
暫くして、悪魔が言った。
『お互いに、説得できたことにするのはどうだろう?』
天使は困った顔をした。
『嘘をつくの?』
悪魔は天使に言った。
『帰れなくてもいいのか』
天使は首を振った。
お互いに、手を振ってそれぞれの場所へ帰った。

天国に帰った天使は偉大な天使に言った。
『悪魔を1人改心させました』
偉大な天使は、小さな天使に言った。
『今日、いたずらをして人を困らせましたね』
小さな天使はうつむいた。
『それに、今嘘をついた』
偉大な天使は、小さな天使を門の外に連れて行き言った。
『もう天国には入れません』
門はぴしゃりと閉まった。
小さな天使は大きな声で泣きながら地上へ降りた。

地獄へ帰った悪魔は、邪悪な悪魔に言った。
『天使を1人堕落させた』
邪悪な悪魔は、小さな悪魔に言った。
『今日、人を助けたな』
小さな悪魔はうつむいた。
『それに自分だけ助かろうとせず天使に知恵を貸した』
邪悪な悪魔は、小さな悪魔を門の外に連れて行き言った。
『もう地獄には入れない』
門はぴしゃりと閉まった。
小さな悪魔は大きな声で泣きながら地上へ這い出た。

天使と悪魔は一緒に地上で大きな声で泣いた。
たくさん、たくさん泣いた。
泣き疲れて、一緒に眠った。
朝起きると、2人は手を繋いで歩き出した。
いつしか2人は人になった。