酒が交わされる。
『最近、調子はどうだい』
頭に角、背中に大きなこぶがいくつもついた怪獣が聞く。
『そこそこだな』
頭が2つある化け物が、ぐいっと酒を飲み干し答えた。
怪獣は、ため息混じりに空を見つめた。
『ほらほら、そんな顔しないの』
顔の口が耳まで避けた女将がなだめる。

怪獣がドンっとグラスを置いた。
『俺だってなぁ、子供の頃はなぁ』
化け物が、怪獣の肩に手を置いた。
『まぁまぁ。言ったってしょうがねぇよ』
怪獣は『言わずにいられるか!』っと怒鳴りながら女将に空いたグラスを突き出す。
女将は仕方なさそうに、酒を注ぐ。

『そう言えば、最近大蛇を見ないな』
化け物は、女将に話しかけ話題を変えた。
女将は化け物にも酒を注ぎながら答えた。
『北の方に出張だよ。ほら、前に腕が4本ある…何て言ったっけ?』
女将がこめかみに手を当てる。
『名前は出てこないが、いたなあ。そんな奴』
化け物が話を合わせる。
怪獣は飲み潰れて、いびきをかき出した。
『そうそう。あそこの自衛団が、あの人に致命傷負わせちゃってね。その代わりよ』
女将は呆れ顔で怪獣を見ながら答えた。
『敵のいない正義は生きにくいからなぁ。あちらさんも大変だ』
化け物はうんうんと頷いてから、顔を上げた。
『でもそんな加減知らねぇ奴らと仕事するのは危なかないか?』
『そりやそうだけどさ、このご時世じゃ選んでいられないでしょう』
化け物の言葉に女将は苦笑いしながら答えた。
『金で敵を雇って倒すご時世ってのはどんなもんだろうな』
化け物は自嘲気味に笑った。

化け物の携帯が鳴る。
化け物はちらりと液晶に表示された名前を見て立ち上がった。
『仕事入ったから行くわ。ツケといて』
ガラガラと戸の閉まる音と同時に外から化け物の声が聞こえる。
『あ。どうも、お世話になってます…』

女将は入り口を見てため息をついてから、寝込んでいる怪獣を揺り起こす。