冷たい石の上
ゆめうりは座っている。
無精ひげにぼろぼろの服というより、布切れに近いものを身にまとった男。
『雲に乗りたい夢』
『パイロットになりたい夢』
無造作に置かれた瓶には、そんなラベルが貼ってある。
僕は、遠い場所から彼を見ていた。

ゆめうりの前に、ずいぶんと裕福そうな男が歩いてきた。
トランクいっぱいの金を払い、瓶を受け取り、幸せそうに去って行った。

次の日もゆめうりはいた。
僕は、遠くも近くもない場所から彼を見ていた。

ゆめうりの前に、みすぼらしい格好の若い男が近づいた。
若い男は、ゆめうりの前を行ったり来たり繰り返し、しばらくして何もせずに去って行った。

次の日もゆめうりはいた。
僕は、近い場所から彼を見ていた。

ゆめうりの前に、きれいな顔だけれど粗末な服を着た女が立った。
女は夢を叶えるための金が足りないと言った。
ゆめうりは黙って札束を渡した。
女は黙って札束を受け取り、夢を置いて行った。

ゆめうりが僕を見た。
『夢のために、夢を売るなんて滑稽だと思わないか?』
僕は、何も言わなかった。
ゆめうりは『まあいいさ』と呟いた。

今日はゆめうりがいない。

今日もゆめうりはいない。

幾日立っただろう?
僕は、ゆめうりが座っていた場所に腰掛ける。

通りの向こうを見ると、いつかみすぼらしい格好をしていた男がこぎれいな格好で通り過ぎて行く。

道の向こうからは、いつか夢を売った女が涙でぐしゃぐしゃな顔でゆめうりを探しに来る。

僕の肩越しにゆめうりが笑った気がした。