川の側。
一本の街灯が立っていた。
昼間は、周りの枯れた葉や木に紛れて、その姿を見つける事は難しい。
夜になれば月に似ていて違う、その柔らかい灯りが辺りを照らす。
揺れる川面に、その姿を映す。

昼に誰かかその姿を見つける事も難しいが、光る時には誰も訪れる事はない。
街灯は独りきり。
雨の日も雪の日も。

1羽のカラスがその街灯に止まって話しかけた。
『どうして誰も来ないこの場所を照らす?』
街灯は答えた。
『誰とも知らない誰かの為にいるのではない』
カラスは聞いた。
『では、誰の為に照らす?』
街灯は答えた。
『昔この場所を好きだと言った人の為にいるんだ』
カラスは言った。
『この場所を好きだと言った人を好きだった人がお前を作って置き去りにしたのか』
街灯は答えた。
『置き去りではない。残されたんだ』
カラスは笑った。
『どう違う』
街灯は答えなかった。

数日してまたカラスが街灯に止まった。
カラスは聞いた。
『ずっとこの場所にいるのか』
街灯は答えた。
『もうすぐいなくなるさ』
カラスは聞いた。
『足でも生えるのか』
街灯は答えた。
『根元が腐ってきている。もうすぐ倒れるさ』
カラスは言った。
『誰かの都合で勝手に作られ、取り残されて、このまま倒れていくというのか』
街灯は答えた。
『確かな気持ちで作られ、残してもらった。倒れても悔いはないさ』
カラスは聞いた。
『自分の意志なく消えていくのに後悔がないというのか』
街灯は答えた。
『自分は作られた時にすでに意味を持っていた。君は生きながら意味を探す。最初から違うのさ』
カラスは何も言わずに飛び立った。

雨が降った。
たくさんの雨。

また、カラスが街灯に止まった。
街灯が言った。
『お別れだな』
カラスは聞いた。
『もう無理か』
街灯が答える前に、街灯はぐらりと揺れた。
一瞬その長い体が宙に浮いた。
『飛ぶのも気持ちいいな』
そして、カラスの言葉を待たずにどしんと倒れた。
『今のは飛んだうちに入らないぞ』
カラスが言っても街灯は答えなかった。

年老いた夫婦が林を散策する。
川のそばまで来る。
『この辺りのはずだがな』と、何かを探している。
錆び付いて倒れている棒の上で1羽のカラスが鳴いた。
老人は近づき、懐かしそうにその棒に触れた。

カラスは飛び立ちながら呟いた。
『世話がやけるな』
飛びながら思い出した。
-置き去りにされたのではなく残された。