帰りに、雨が降りだした。

傘を家に忘れてきた私は、職員室へ借りに行った。

私が手をかける前に扉は音をたてて開いた。

職員室から顔を覗かせたのは、野島君だった。

彼は私を見て少しだけ嫌そうな顔をした。

「傘を家に置いて来ちゃったから、借りようかと思って……」

何も聞かれていないのに、私はつい言い訳をしてしまう。

野島君も仏頂面のまま私の言い訳を立ち止まって聞いていた。



久し振りのコウモリ傘だった。

クラスメートに見られると厄介だから、裏道から帰ることになった。

「紫藤さんって、友達いないの?」

急に野島君がそんなことを訊ねてきた。

「別の学校にならいるよ。1番仲良かった子は、遠い地方に行っちゃったから、もう会えないけど…。」

野島君は、意外に話しやすかった。

普通に話題を振ってくれるし、相槌もある。

会話は普通に成立した。



私の家の前まで来た時。

野島君は私の部屋を見上げて目を見開いた。

「あ、雨が好きなの。私…」

逆さてるてる坊主について苦しい言い訳をしながら、私は自分の顔が赤くなっていくのが分かった。

野島君は唖然としていたが、やがて小さく笑った。

「俺の部屋にも、あれあるよ。」

彼はそれだけ言うと、歩いてきた道を戻っていった。

今更ながらに野島君の家の方向が私と真逆であることを知り、私は何処か申し訳ない気持ちになった。