「一々泣くなよ、ウザいから。」

こうもり傘を広げながら、野島君はやはり無愛想にそう言った。

お礼を言わなければいけないことは分かっていたけれど、傘が壊されたというショックが多すぎて、声が出なかった。

野島君の傘は、何の飾り気もないただ実用的なもので、彼にはぴったりだと思った。

送ってもらったけれど、学校から家までの間、私たちには会話がなかった。



翌朝、教室は気まずい雰囲気になっていた。

野島君はなかなか登校して来なくて、その間私とギャルの集団はお互い無言だった。

一言くらい謝れよ、心の中でそう思ったものの、口に出すような勇気を私は持っていなかった。

昨日お母さんから事情を聞かれたけれど、上手く喋ることができずに心配をかけてしまったのだ。

担任は始業のチャイムより早くに教室へ来て、私を廊下へと呼び出した。

「昨日の傘の件だけれど、色々噂は聞いたの。だけどやっぱり、本人たちにも事情を聞こうと思っているから、しばらく待っていてね。お母様には私から話をしておくから。」

――どうしてあんな奴らの言い分なんて聞くんだ。

私は苛つきながらも、小さく頷いた。



「紫藤!」

担任との話が終わった時に、バタバタと音を立てて野島君が階段を駆け上がって来た。

新聞紙でぐるぐると包んだ何かを、彼は抱えていた。

「これ、やる。」

彼は私に新聞紙で包んだ何かを手渡すと、何事もなかったかのように教室へと入って行ってしまった。

慌てて女子トイレへ入って、新聞紙を外す。

中へ包んであるものを確認して、私は思わず笑ってしまった。

コンビニで売っているビニール傘に、peace nowで買った傘に似せた絵柄が描かれていた。

――全然違うよ。

そう思いながらも、心が温かくなり、私は傘をそっと抱き締めた。