担任不在のせいでわざわざ職員室まで呼び出された野島君は、不機嫌を隠しきれていなかった。
教務主任が席を立った隙に私を睨み、
「傘がなくなったくらいで一々泣くなよ」と毒づいた。
担任は優しい年輩の女性で、私も心おきなく話せるけれど、学級委員の野島君とはあまり話したくなかった。
彼は、女嫌いで有名な人物だったから。
担任の席に腰を下ろして、野島君は立ったままの私を見上げた。
「何。そんなに大切な傘なの?」
つっけんどんな言葉に怖じ気づきながらも、私は首を縦に振った。
「peace nowから去年発売された傘なの。今はもう売っていないし、ビニール製だけど3000円したの。」
私の言葉に彼は「はぁ!?」と大袈裟に眉をひそめた。
「何でビニール傘が3000もするんだよ。紫藤さんもブランドものとか好きなわけ?」
理解できない、とばかりに溜息をつかれ、私は少しだけ慌てた。
同じクラスのブランド狂のギャルたちとは一緒にされたくなかった。
「私、ゴスロリとか好きだから・・・。
でも、そういうブランドって普通のとこの数倍高いの。」
「意っ味分かんねー。そんなん、ビニール傘に油性ペンでイラスト描いときゃ良い話じゃん。
馬鹿らしい。俺は知らないからな。」
野島君はそれだけ言うと、先生たちに呼び止められるより早く職員室を出て行ってしまった。
彼に幻滅されたというショックと、好きなものを否定されたショックは大きかった。
教務主任が職員室の傘を貸してくれた。
「また誰かが届けてくれたら報告するから。今日はこれで帰りなさい」
渡された黄ばんだ傘を握り、私の悲しさは増した。
――大切に使うのよ。
そう言って傘を手渡してくれたお母さんのことを思い出してしまった。
下駄箱のある地下へ向かう途中、たくさんの生徒に追い越された。
何かあったのだろうかと思いながらも、私はゆっくりと下駄箱へ向かった。
「窃盗しといて逆ギレかよ、ほんと頭大丈夫か!?」
不機嫌な怒鳴り声が聞こえてきて、私は思わず姿勢を正した。
物陰に隠れて、騒ぎの方を見る。
そこには野島君と、私の傘を手に持った女子とその取り巻きがいた。
私の傘は、骨が折られてしまっていた。
それを見た瞬間に、私は目眩がした。
――大事な傘なのに……。
また泣きそうになりながらも、怒っている野島君を見ると、私が泣いている場合ではないと思った。
冷たく職員室を出て行った野島君は、私の為に傘を探してくれていたのだ。
「こんなビニール傘、どうだって良いじゃん!何マジになってんの!?」
壊れた傘を握りしめている女子は、ヒステリックに怒鳴った。
クラスの中で目立つ、華やかな集団だ。
陰で私の悪口を言っていることは知っていたけれど、まさか傘を壊されるなんて思いもしなかった。
「その傘、すごく高いんだよ! 今は売られていない大切なものなんだって、紫藤が言ってたんだよ!」
野島君は下駄箱を勢いよく叩いた。
それに怯えた女子の手から、私の傘が音を立てて落ちた。
「お前ら、ブランドもの買う金ないからって、お嬢様の紫藤を僻んでるだけだろ!超だせぇ。」
野島君に怒鳴られた彼女たちは、プライドを傷付けられたように顔をまっ赤にしたが、徐々に増えてくる野次馬を気にしたのか、俯いたまま下駄箱から立ち去って行った。
教務主任が席を立った隙に私を睨み、
「傘がなくなったくらいで一々泣くなよ」と毒づいた。
担任は優しい年輩の女性で、私も心おきなく話せるけれど、学級委員の野島君とはあまり話したくなかった。
彼は、女嫌いで有名な人物だったから。
担任の席に腰を下ろして、野島君は立ったままの私を見上げた。
「何。そんなに大切な傘なの?」
つっけんどんな言葉に怖じ気づきながらも、私は首を縦に振った。
「peace nowから去年発売された傘なの。今はもう売っていないし、ビニール製だけど3000円したの。」
私の言葉に彼は「はぁ!?」と大袈裟に眉をひそめた。
「何でビニール傘が3000もするんだよ。紫藤さんもブランドものとか好きなわけ?」
理解できない、とばかりに溜息をつかれ、私は少しだけ慌てた。
同じクラスのブランド狂のギャルたちとは一緒にされたくなかった。
「私、ゴスロリとか好きだから・・・。
でも、そういうブランドって普通のとこの数倍高いの。」
「意っ味分かんねー。そんなん、ビニール傘に油性ペンでイラスト描いときゃ良い話じゃん。
馬鹿らしい。俺は知らないからな。」
野島君はそれだけ言うと、先生たちに呼び止められるより早く職員室を出て行ってしまった。
彼に幻滅されたというショックと、好きなものを否定されたショックは大きかった。
教務主任が職員室の傘を貸してくれた。
「また誰かが届けてくれたら報告するから。今日はこれで帰りなさい」
渡された黄ばんだ傘を握り、私の悲しさは増した。
――大切に使うのよ。
そう言って傘を手渡してくれたお母さんのことを思い出してしまった。
下駄箱のある地下へ向かう途中、たくさんの生徒に追い越された。
何かあったのだろうかと思いながらも、私はゆっくりと下駄箱へ向かった。
「窃盗しといて逆ギレかよ、ほんと頭大丈夫か!?」
不機嫌な怒鳴り声が聞こえてきて、私は思わず姿勢を正した。
物陰に隠れて、騒ぎの方を見る。
そこには野島君と、私の傘を手に持った女子とその取り巻きがいた。
私の傘は、骨が折られてしまっていた。
それを見た瞬間に、私は目眩がした。
――大事な傘なのに……。
また泣きそうになりながらも、怒っている野島君を見ると、私が泣いている場合ではないと思った。
冷たく職員室を出て行った野島君は、私の為に傘を探してくれていたのだ。
「こんなビニール傘、どうだって良いじゃん!何マジになってんの!?」
壊れた傘を握りしめている女子は、ヒステリックに怒鳴った。
クラスの中で目立つ、華やかな集団だ。
陰で私の悪口を言っていることは知っていたけれど、まさか傘を壊されるなんて思いもしなかった。
「その傘、すごく高いんだよ! 今は売られていない大切なものなんだって、紫藤が言ってたんだよ!」
野島君は下駄箱を勢いよく叩いた。
それに怯えた女子の手から、私の傘が音を立てて落ちた。
「お前ら、ブランドもの買う金ないからって、お嬢様の紫藤を僻んでるだけだろ!超だせぇ。」
野島君に怒鳴られた彼女たちは、プライドを傷付けられたように顔をまっ赤にしたが、徐々に増えてくる野次馬を気にしたのか、俯いたまま下駄箱から立ち去って行った。