「出ていくよ。地方の大学に行く」
「何で?」
「何でって…」
「ここでは出来ないこと?」
「それは…」
「俺には百合がここを出ていくためだけにそう決めたようにしか思えない」
見抜かれていた。暁くんはいつも私の嘘を見抜いてしまう。

「俺は百合に出ていってほしくない」
「何で…?私がいるから暁くん、彼女できないのに…」
「はあ?」
「だって私がいなかったら彼女連れ込めるでしょ?」
「連れ込めるって…。百合、何勘違いしてんの?」
げんなりした顔をしたあと、腕を引っ張られた。

「え?さ、とし、くん…?」
私は暁くんの腕の中にいた。強く抱き締められていたから暁くんの顔は見えなかった。
どういうこと――――?
「本当はもっとあとで言うつもりだったんだけど…」
ぎゅっと二人の間の隙間がなくなるくらい引き寄せられた。
何?何が起こったの?

「俺は、百合が好きだよ」

「…え……?」

「あの、雪の日からずっと――――」

雪の日って…初めて会った…?
信じられないくらい嬉しかったけど、これは許されるの?
だって――――
「でも、私たちは義兄妹(きょうだい)で…」
「そんなの関係ないよ。戸籍上では兄妹(きょうだい)じゃない」
「今までたくさんお世話になったのに恩を仇で返すようなこと――――」

好きだと言っているようなものなのに私はそれさえ気付かなかった。
それくらい驚く言葉だったから。

「親父たちに遠慮してるなら心配ないよ。了承済みだから」
まだ何かあるの?と問われて私は言葉が続かなかった。
「俺まだ返事聞いてないんだけど?」
本当にいいの?私の願いを叶えていいの?

「私、妹じゃなくて恋人になりたかったの」

私の心からの言葉。ずっと、願っていた。届かぬ願いと知りながら。
「そう言ってくれるの、ずっと待ってた」
囁かれた声は今まで聞いた暁くんのどんな声より私の心に響いた。

抱き締めてくれた腕は私が唯一安心できるもので。
暁くんがいてくれたから生きる希望を失わなかったし、
暁くんがいてくれたから生きてこられた。

そして確かな気持ちをくれた。これ以上の幸せがあるだろうか。
ありがとう、暁くん――――
私はこの想いが伝わるようにできるだけ強く抱き締め返した。