暁くんは私よりも8つも年上で仕事をしていた。
生活のリズムが違うせいかあまり一緒にいる時間はなかったけど、
出来る限り私が淋しい思いをしないようにしてくれた。

「ねえ、百合のお兄さんかっこいいよね!」
授業参観や三者面談の時に必ず言われることだ。
一応(血が繋がっていないとはいえ)兄ではあったので、
似ていなくてもみんなにはそう紹介した。
義兄(あに)…私はそうは思えなくなっていた。暁くんを愛してしまっていた。
でも、伝えてはいけないことを知っている。
厄介者を快く引き取ってくれたおじさま、おばさまに申し訳が立たない。
壊してはだめ、家族を――――

いっそ暁くんが結婚してくれれば諦めもつくのに、彼に女の影は全くない。
私を引き取ってからずっと。
「仕事が忙しくてそんなこと考える暇なんかないよ」
まだ、私だけの暁くんでいてくれる?それもあと少しだから…。
あと一年したら―――――

「はい、もう少し考えてみます」
切った電話はおじさまだった。
仕事の都合でアメリカにいるおじさまたちは私の進路を真剣に案じてくれる。
私の幸せに繋がるようにと。

「東京ではなく地方の大学に行きたいんです」
お金はバイトすればいいし、奨学金を取ればいい。
金銭面で迷惑を掛けないと言えば、そうじゃないと返された。
「本当にそれでいいのかい?」
お金なんてどうでもいいと言われた。
「子供の学費を出すのは親の役目だからね」
私はこんなによくしてくれるおじさまたちを裏切るなんてできない。
涙が浮かんだが精一杯堪えた。
「そんなに焦って考えるものではないよ。時間はたくさんあるのだから」
優しいおじさまの声に、私はさっきの言葉を返したのだった。

私がいるから暁くんが幸せになれないのだったら、私は離れるべきだ。
私には何の権限もないのだ。彼を縛り付けておけるものなど何も持っていない。
ねえ、暁くん…私、妹じゃなくて――――