「俺のところに来る?」
差し出された手。何のためらいもなく私は頷き、その手を取った。

両親が事故で死んだ。
駈け落ち同然で結婚した両親の子で一人残された私を誰が引き取るかで
会ったこともなかった親戚が集まって揉めていた。
当事者なんかお構いなしみたいで私が部屋を抜け出しても誰も気付くことはなかった。


私は雪が降り続く空を見上げた。
お父さん、お母さん…。もう、いない。
どうして私を連れていってくれなかったの―――――?
まだ、誰かがいないと存在も危うい私。どうして一人では生きられないの?
誰かに引き取られるくらいなら、このままいっそ両親の元に――――
こんなことを願ったらお父さん、お母さんが悲しむかもしれないけど…。
降り止まない雪がいつしか私にも積もっていたけど気にすることはなかった。
これから、どうなってしまうんだろう――――

しばらくして雪を踏んだ音が背後でした。
空を見上げながら立ち尽くしていた私はその音に振り向いた。

黒いスーツに身を包んだその人。
確か…昔お父さんとお母さんがお世話になった人の息子さんだとか聞いた気がする。
その人は悲しそうに私を見つめ、そっと私の肩に積もった雪をはらった。
「死んだら、駄目だ」
「え…?」
どうして、わかるの?
「俺のところに来る?」
なぜ信じようと思ったのかなんてわからない。
でも、あの場にいたどの大人よりも私の気持ちをわかってくれている気がした。
私は彼の手を取った。その手はあたたかくて、
止まったはずの涙がまた溢れそうになった。

彼との出会いから三年が経った。
私はあのあと彼、暁(さとし)くんに引き取られて(正確には彼の親御さんだが)
彼の部屋で暮らしていた。
暁くんはあまり喋る人ではなかったけど、優しい人だった。
私が泣いたりしたときは抱き締めて慰めてくれた。

「大丈夫だよ、百合」
私はその腕の中にいると安心できた。守られていると、そう思えた。