「何でなんスか!!」


社長との面会が終わると、瀬々は事務所に荒々しく足を踏み入れ、手に持っていた荷物を自分のデスクに力任せに置いてそう叫んだ。


「瀬々ちゃんおかえりー」

「おかえりじゃないッスよ!」


未だ興奮を抑えられず、少し離れたデスクで書類と向き合ってる上司の言葉にさえも食ってかかる。


「まーた随分荒れてんね。社長に何か言われた?」

「ええ、そりゃもう毎度のことながらね!何でいっつも俺ばっか怒られるんスか!理不尽ッスよ!」

「社会とは大体そういうものですよーっと」


感情をぶつけるかのようにデスクを荒々しく叩く瀬々を余所に、上司――相澤智昭(アイザワ トモアキ)は至って平静に言葉を返した。
そして書類を手に、瀬々の近くにある椅子に適当に持ってきて腰掛けた。


「とりま落ち着きなさいって。ほらポップコーンあげるから」

「引き出しに隠してるマカロンは?」

「残念ながら盗まれました。ほら座って」


智昭が促すと瀬々は渋々、自分の席に座る。
大人しくはなったものの大層不満なようで、その表情はふてくされていた。


「で、いじけるほど社長に何を言われたの?」

「いつもの事ッスよ。依頼達成度も貢献度もずば抜けてる。でも依頼人評価は最低だって」

「瀬々ちゃん正直だもんね。それで?」

「改める気はないかって言われて、ないって答えたんス。情報屋と依頼人は対等だからって」

「そっか」

「そしたら……」

「そしたら?」

「………」


聞き返すが、瀬々は俯いたまま口を閉ざした。
しばらく口を割らないだろうと判断した智昭は、様子を見ながら待つことにした。
すると程なくして、瀬々は体をわなわなと震わせ始めた。


「瀬々ちゃん?」

「解雇宣言されやしたぁぁああ!」


普段とは違う様子に、智昭が顔色を伺おうと覗き込んだ瞬間、瀬々は狂ったようにそう叫んだ。
そして縋りつくように智昭に抱き付いた。


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