この世界には異能者という存在が密かに生きている。
異能者とは人ならざる力を持つ者。
超能力者とも言われる。
その誕生には未だ謎が多いが、古来より存在していたと推測される。
そんな異能者だけが足を踏み入れることが出来る異能者だけの場所。
異空間都市プラティア。
プラティアは六の区域に分かれており、中でも第三区は繁華街として賑わいを見せている。
「んー……これはちょっとした問題ですねぇ」
「そうッスか?ちょっとした問題なら大したことないと思いやすけど」
そんな華やかな第三区に、ひっそりと佇むのは情報屋・藍猫。
そこの一室は無数の書類に囲まれ、忙しい足音や人の声。
外の喧騒が窓と扉越しに聞こえていた。
その中央にある長椅子に腰掛けながら、風変わりな藍色の猫の仮面を付けた男と少年は対峙していた。
「ここに来て何年だっけ?」
「研修期間含めて丁度一年と三ヶ月ッス」
「あ、まだそんだけか。んーでもなぁ。この成績はちょっとマズいんじゃないかなぁ」
男は曖昧に呟きながら、見ていた書類をデスクの上に置く。
何気なく見てみれば、今月の報告書だった。
細かい文字が延々と羅列していて、ただ見ているだけでも目が痛くなる。
「キミは社員の中で、こなした依頼の数も稼いだ金額もずば抜けてるんだけどね~。いかんせん、依頼者からの評価が低い低い」
「はぁ…」
嘆く男を余所に、何度も聞かされたその言葉に少年は間抜けた返事を返す。
「どんなに仕事の腕が良くても、困るんだよ。うちみたいな小さい店は信頼が要だからね」
「でしょうね。んで、その口ぶりからして、今月もまた俺は最下位なワケだ。まぁ当然の結果ッスね」
自嘲気味されど平然と答えれば、男は盛大な溜め息をこぼした。
「……分かってるなら直す気はない?悠くん」
呆れと懇願が混じるその問いに、
少年――瀬々悠(セゼ ユウ)は灰色の髪を揺らしながら、飄々とした笑みを浮かべた。
「ないッスね。情報屋は情報という宝を手繰り寄せて上手く扱うのが仕事であって、人に媚びるのが仕事じゃない」
「そりゃそうだけどね?依頼人がいるからこその情報屋でもあって――」
「その反対、情報屋あっての依頼人でもありやすよね?自分じゃ手に入れられない困難な情報、あるいは後ろめたい情報とか?それらを専門である俺達をいいように使って集めさせたりするんだから」
諫める言葉を逆手に取って、ほぼ持論に近い言い分を主張する瀬々。
反省どころか開き直っているようなその態度に、男は再度溜め息を吐いた。
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